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旭川地方裁判所 昭和35年(ワ)238号 判決

原告 楠夏義

被告 株式会社斎藤製作所

主文

被告は、別紙目録第一および第二各図表示の各物件の製造、販売をしてはならない。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一、原告訴訟代理人は、被告は別紙第一ないし第三図表示の各物件の製造、販売をしてはならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求めた。

二、被告は請求棄却の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は、昭和三一年四月二日実用新案登録出願、同三三年二月一三日右出願公告、同年八月八日登録にかかる実用新案登録第四八〇五八〇号「除草車」(以下本件実用新案除草車と称する。)の実用新案権(以下本件除草車実用新案権と称する。)および昭和三一年九月一五日実用新案登録出願、同三二年九月七日右出願公告、同三三年一月三〇日登録にかかる実用新案登録第四七一〇三七号「除草器」(以下本件実用新案除草器と称する。)の実用新案権(以下本件除草器実用新案権と称する。)を有するものである。

(二)  本件各実用新案権の権利範囲は次のとおりである。

1 本件除草車実用新案権については別紙目録第四図で示すように、「軸管(1) に数枚の円板(2) を適当間隔を置いて並設し、その周囲に沿い多数の一二番金属杆(3) を〇・九ないし一・四センチメートルの間隔(4) を置いて平行に配設し、且つ金属杆(3) で形成する径(5) を七ないし一二センチメートルとして全体を等径の除草輪に形成し、該径(6) を異ならしめた一対の除草輪を器枠(6) に前後して軸杆(7) で回転自在に取付けてなる構造」である。

2 本件除草器実用新案権については別紙第五図で示すように、「前部に舟橇(2) を設けた器枠(1) の後部に、多数の細杆(3) を周囲に適当間隔を置いて並設した大小径を異にする除草輪(4) (5) を廻転自在に横架し、器枠(1) の前後に数個の締着孔(6) を列設した支承杆(7) (8) の下端を取付け、これに多数の締着孔(9) を下部に列設した操作杆(10)を締捻子(11)で位置を可調的に締着してなる構造」である。

(三)  被告は、昭和三五年一月頃から別紙目録第三図表示の除草輪(以下本件除草輪と称する。)を部分品とする主文第一項記載の各除草機(以下別紙目録第一図表示の除草機を本件除草機(一)、同第二図表示の除草機を本件除草機(二)と称する。)を製造、販売している。しかし、被告の右製造、販売にかかる本件除草機(一)、(二)およびその部分品である本件除草輪は、本件実用新案除草器、向除草車と形状、構造、作用効果の点において同一であるから、本件除草機(一)、(二)は本件除草車および除草器各実用新案権を、本件除草輪は本件除草車実用新案権を各侵害しているものである。

(四)  よつて、原告は被告に対し、被告の製造、販売にかかる本件除草機(一)、(二)および本件除草輪についてその製造、販売の禁止を求める。

二、被告の答弁

原告主張の請求原因中(一)、(二)の各事実は認める。同(三)の事実中、被告が昭和三五年一月頃から本件除草機(一)、(二)および本件除草輪を製造、販売していたことは認めるが、その余の事実は否認する、現在右除草機および除草輪は製造、販売していない。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因(一)、(二)の各事実および同(三)の事実中被告が昭和三五年一月頃から本件除草機(一)、(二)および本件除草輪を製造販売していたとの点は被告においても争いがない。

二、証人河村善三郎の証言および原告本人尋問の結果によると、被告が現在もなお本件除草機(一)、(二)および本件除草輪を製造、販売している事実を認めることができる。従つて被告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前記証拠に照らし信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三、そこで、被告の製造、販売にかかる本件除草機(一)、(二)が原告の本件除草車および除草器各実用新案権の権利範囲に属するか否かについて判断する。

(一)  本件除草車および除草器各実用新案権の各権利範囲は次のとおりである。

1、まず、本件除草車実用新案権の権利範囲は、成立に争いのない甲第二号証、同第三号証および鑑定人土肥修の鑑定の結果によると、次のとおりであるものと認めることができ、右認定に反する証拠はない。即ち、

(a) 泥土への喰込みを軸方向に均一に保つ目的で、針金を中心対称、等間隔に円筒母線上に平行に配列した回転自由の円筒形籠型構造を有する。

(b) 円筒母線に平行して配列した針金を固定し、且つ車輪を進行方向に直接的に案内する目的で、円筒母線(針金)に垂直な平面(回転面)内に、互に平行な複数の薄板円板を有する。

(c) 除草能率を上げ、無用の走行抵抗を減ずる目的で、回転車輪をその転動進行方向に直列に二個配列し、且つ外径を七ないし一二センチメートルの範囲内で種々異なる車輪を用意し、希望する径のものを交換し、その組合せを任意に選択し得る。

2、次に、本件除草器実用新案権の権利範囲は、成立に争いのない甲第一号証、同第四号証および前記鑑定の結果によると、次のとおりであるものと認めることができ、右認定に反する証拠はない。即ち、

(a) 泥土上をぬからずに滑走し、走行抵抗を減ずる目的で前部に固定舟橇を有する

(b) 除草の目的を能率的に達成するため、自由に回転し得る円筒形籠型除草輪を有する。

(c) 泥土への過度の埋没を防ぎ、全走行抵抗を減じ除草能率を上げる目的で、右除草輪を転動進行方向に直列に二個有し、車輪の径を互に異なるものを任意に組合せて使用し得る。

(d) 作業者の体格、体力および泥土の硬軟に応じ、走行抵抗を減じ、作業所要動力(労力)を軽減する目的で、押動ハンドル(支持棒)の傾斜角を加減できるよう支持枠(フレーム)に多数の孔を有する。

(e) 主として、作業者の体格、体力に応じ且つ前項の調節に即応して押動ハンドルの高さを加減し、作業を容易にする目的で希望する位置にハンドル横棒(把握部)を固定できるようハンドル縦棒(支持棒)に数個の孔を有する。

(二)  被告の製造、販売にかかる本件除草機(一)、(二)の形状、構造が別紙第一、第二図表示のとおりであることは前記のとおり当事者間に争いないところであるが、本件除草機(一)、(二)の主要部分および両除草機の関係は被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一号証および被告代表者本人尋問の結果によると次のとおりであるものと認めることができ、右認定に反する証拠はない。即ち、

1、本件除草機(一)は、前部に舟橇を設けた器枠の後部に、周囲に多数の細杆を適当間隔を置いて並設した径を同じくする除草輪を回転自在に横架し、器枠の前後に支承杆を取付け支承杆に数個の締着孔を列設してその支承杆に操作杆を取付けこれを二個並例してなる除草機である。

2、本件除草機(二)は右本件除草機(一)の前輪を円筒形籠型のものでなく径を異にする多数の爪を周囲に列設した爪型除草輪に取換えて取付けたものである点を除き、その他の部分はすべて本件除草機(一)と形状、構造とも同一である。更に本件除草機(二)の爪型除草輪は固定されたものでなく、取り換え自在であつて爪型除草輪を円筒形籠型除草輪と取り換えることによつて本件除草機(一)となるものであり、被告は本件除草機(二)については注文に応じ円筒形籠型除草輪一個を余分に添えて販売していたものである。

(三)  そこで、前記認定の事実および前記鑑定の結果に基づき本件実用新案除草車、同除草器と本件各除草機とを比較検討すると、本件各除草機は、除草機(一)において二個の径を同じくする円筒形籠型除草輪を器枠に前後して軸杆で取付けている点、除草機(二)において前方除草輪が爪型であり前同様二組並列している点、右両除草機ともハンドル横棒(把握部)を任意の位置に固定しうるための孔数個がハンドル縦棒(支持棒)に設けられていない点を除き、その他の形状、構造は本件実用新案除草車および除草器と同一である。即ち、本件除草機(一)、(二)は(い)除草機の前部が舟橇の構造を有すること、(ろ)本件実用新案除草車、同除草器の部分品である円筒形籠型除草輪を使用し、右車輪を直列に二個配列していること(但し本件除草機(二)は後輪のみ右車輪を使用している。)(は)後部の支持枠の調節孔が多数存在すること等の各機能、構造上の特徴を有するが、(い)の点は本件実用新案除草器の主要部分である前記(a)項に、(ろ)の点は本件実用新案除草車の主要部分(a)(b)(c)項、同除草器の主要部分(b)(c)項に、(は)の点は右除草器の主要部分(d)項にそれぞれ該当する。

よつて、進んで本件実用新案除草車、除草器と本件各除草機とにつき除草輪の占める構造上の差異が、本件実用新案権によつて表現されている除草車、除草器の技術的効果にどのような影響を及ぼしているかということについて判断する。凡そ、実用新案権の権利範囲の認定に際しては、その図面、説明書全般の記載に徴して判断すべきであることはいうまでもないが、本件の如き生産的用途に適する物品については単に型としての構成だけではなく、寧ろ型によつて表現された考案の技術的効果に重点を置いて同一性が比較されなくてはならない。従つて除草輪に関する差異について考えるには、右見地から本件実用新案除草車および同除草器における除草輪の機能について考察する必要がある。ところで前記鑑定の結果によると、右除草車および除草器において除草輪には、運動を外部に伝えるための機械要素(この場合転動走行のための車輪)としての機能および外部に対して直接仕事をするための工具(この場合直接雑草を除去する工具)としての機能があり、除草輪を工具としての観点から考えれば、一般に工具は加工物、加工条件に応じて種々形状、機能の異なるものを用意して任意に取り換えて使用し、それぞれ最高の能率を上げることを目的としているものであるから、同径、異径多数の車輪を用意してこれを使い分けるのが通常であるものということができる。してみると、本件実用新案除草車および同除草器において前後除草輪が大小径を異にする旨の実用新案説明記載は最も効果的な実施例を明示しているにすぎず、前後車輪が同径である組合せをも予定しているものと解すべきであるから、本件除草機(一)においては、前記認定のとおり、単に前後除草輪の径が同一であり且つこれを二個あて二組並列している点で本件実用新案除草車、同除草器と差異があるとしても、除草輪の構造およびその他の主要部分がいずれも右除草車、除草器と同一であることを併せて考えれば、本件除草機(一)が右各実用新案と異別の技術的効果を生ずるものとは解せられない。よつて、本件除草機(一)は本件除草器および除草車各実用新案権の権利範囲に属するものといわなくてはならない。次に、本件除草機(二)は、前記認定の事実によると、前方の除草輪が爪型である外は本件除草機(一)と全く形状、構造とも同一であり、しかも前方の爪型除草輪は固定されておらず、円筒形籠型除草輪と任意取り換えることにより本件除草機(一)となるうえ、この販売に当つては注文に応じ円筒形籠型除草輪一個を余分に添えていた事実が明らかであるから、これらの点を考え併せれば、本件実用新案除草車、同除草器の予定する技術的効果と別個の作用、効果を有するものとは考えられないので、本件除草機(二)も本件各実用新案権の権利範囲に属するものといわなくてはならない。なお、本件除草機(一)、(二)は同じく前記認定の事実によると、直列二個の除草輪が二組並列されている点および希望する位置にハンドル横棒を固定するための孔数個がハンドル縦棒(支持棒)に設けられていない点等が明らかであるが、これらは本件実用新案除草車および同除草器の一つの主要部分の特徴の一部に差異があるというだけであつて、権利範囲の認定に影響を与えるものではない。

四、次に、原告は本件除草輪が本件除草車実用新案権の権利範囲に属するものである旨主張するので判断するに、右実用新案権は前記認定のとおり二個の円筒形籠型除草輪を直列に配列、組合せたものをその内容とするものであるから、一個の除草輪自体は右実用新案権を構成する物品というべきである。ところで、被告代表者本人尋問の結果によると、本件除草輪は右実用新案権の構成部分である除草輪と形状、構造において同一であるから、右除草輪自体を製造、販売することによつて直接右実用新案権が侵害されるものではなく、間接的に侵害される可能性が存するものと認むべきである。してみると、原告は本件除草輪が右実用新案の権利範囲に含まれるものであると主張するにとどまり、被告において右実用新案除草車の製造にのみ使用する物である本件除草輪を業そして製造しているとの点については何らの主張をもしていないのであるから、本件除草輪の製造、販売の禁止を求める部分は理由がない。

五、以上のとおり、本件除草機(一)、(二)はいずれも本件除草車、除草器各実用新案権の権利範囲に属するから、その製造、販売の禁止を求める部分は理由があるので正当としてこれを認容し、その余の請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条但書、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川名秀雄 高田政彦 田崎文夫)

第一図、第二図、第三図、第四図、第五図〈省略〉

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